佐藤ひろ美 半生記 第4回:デビュー!そしてたくさんの出会い

 コミックマーケットでの山川竜一郎氏との出会いは、佐藤ひろ美の人生を大きく変えることとなる。立ち上げたばかりのフロントウイングのデビュー作『カナリア』でのボーカリストを探していた山川氏は、サティアグラハのCDを聴いてひろ美にオファーを出す。そして2000年8月4日にソフト発売。佐伯綾菜ルートのエンディング曲『シールド』で、ひろ美はデビューを果たした。
 まさにここが、佐藤ひろ美の出発点。その後活躍の幅を広げていくが、「デビュー直後に出会った人たちに色々と教えてもらったおかげ」とひろ美は振り返る。そこで今回は少し流れを変えて、当時出会った何人かの人を紹介していきたい。

 山川竜一郎氏は、先にも書いたようにPCゲームメーカー・フロントウイング代表。『カナリア』がデビュー作ということで、佐藤ひろ美と同じく2010年に10周年を迎える。
「山川さんの印象は文化系の大学生。それは今でも変わらない」とひろ美。『カナリア』でのデビューという親近感もあってか、その後も仲が良く、制作スタッフとも会っているという。
「いつでも自然体な人で、仕事の時も遊びの時も変わらない。お仕事がしやすい人ですね」
 そう語る言葉を裏付けるように、その後もフロントウイング作品で主題歌やエンディングを歌うばかりではなく、2007年12月27日発売の『タイムリープ』では、エンディングに佐藤ひろ美がプロデュースした笶田みこの『Time Fly』が使われた。
「私がひとつ語ると、10理解した上でアイデアを返してくれる人。言葉は少ないんですが事実をズバリ指摘してくれるし、嘘をつかない人なんです」(ひろ美)

 佐藤ひろ美がデビュー後、行動を共にしていたマネージャー兼プロデューサー的な存在が虻川治氏だ。
「夢や理想を追い続ける山川さんとは正反対で、虻川さんが現実を直視している人」と虻川氏を語るひろ美は、彼を「リアリティーの塊」と紹介する。音楽ビジネスを理解する虻川氏は、「芸能界や音楽業界のことはもちろん、生活や仕事、お金のこと」をひろ美に教えた。
「初めて出会った音楽業界の先輩です。元々ミュージシャンだったので、アーティストの気持ちを理解したうえで、現実的な指摘をしてくれる。スタジオの実作業や気持ちの持って生き方も教えてもらった。たくさんの経験を重ねている人なので、一言に重みがあるんです」
 そんな虻川氏がひろ美に教えたのは、常にミュージシャンとしての意識を持つこと。
「デビュー当時は毎日お昼に電話がありました。「今は何をしているのか」「音楽のことを考えているか」。そういえば「ちゃんと起きているか?」と言われて、寝ぼけ声で「おきてまーす」なんて言ってたっけ(笑)」
「色んなことがあって、その後に離れてしまうんですけれど、虻川さんには感謝しています。自分が音楽業界で生きていけるのは虻川さんのおかげ」と佐藤ひろ美は振り返る。その後につながる人脈を繋いだのも虻川氏だった。

 同じ時期に佐藤ひろ美を精力的にサポートしたのが、現タブリエ&コスパグループ会長の松永芳幸氏だ。
「タレントとして、どのように生きるべきかを教えてくれた。セルフ・プロデュースの大切さについて、色々とお話しをしてくれました」
 秋葉原のキュアメイドカフェでのクリスマス・ライヴやバレンタイン・ライヴの実現も、松永氏の仕掛けの一つ。また、デビュー当時のステージ衣装も提供してくれた。
「その頃はゲーム系のイベントなどできるような衣装は持っていなかったんです。そしたら松永さんが「ウチの衣装を使えばいい」って貸してくれたんです。本当にありがたかった」
 コスパ会長だけに衣装へのこだわりも人一倍。前述のバレンタイン・ライヴでは、ひろ美のネコミミの角度を直すのに、5分間をかけたという。
「当時フリーの歌手だった私に、たくさんのアドバイスをしてくれました。それが今の社長業に繋がっているところもあるんだから、人の縁って面白いですよね」

 佐藤ひろ美の初期代表作といえば『みずいろ』を上げるファンは多い。この歌を主題歌にしたPCゲーム『みずいろ』を制作したねこねこソフトの片岡せいやんプロデューサーも、ひろ美にとって大切な人の一人。
「当時も今も“やさしいおっちゃん”というイメージ(笑)。もともと音楽畑の人なので、音楽についてもたくさん教えてもらえたし、ゲーム業界についても教えてもらいました」
『みずいろ』でのラジカセを使っての店頭ライヴは今でも語り草だ。
「最初は「こんな状況で歌うの?」ってビックリしました。でも、その経験があったからこそ、今の私がいるんです。本当に感謝しています」
 片岡氏は音声収録現場にも紹介してくれた。それがのちにチーム『みずいろ』と呼ばれる仲良し集団に繋がっていく。
「初めて収録を見せていただいたのは『銀色』でした。その後に『みずいろ』の現場にもお邪魔して、声優さんたちと仲良くなったんです。連絡を取り合って、よく一緒に遊んでいました」
 今では全員が大活躍しているチーム『みずいろ』だが、当時はまだ駆け出し。今の仕事やアルバイトのこと、将来の夢や目標……たくさんのことを話し合った。
「今でも繋がりはあって、みんな忙しいから会えることも少ないけれど、ふとあの頃の話をしたりもするんです。同窓会みたいな感じですね」

 他にもこの時期に出会った大切な人は多い。
「いい先生に恵まれたって感じです。ゲーム業界で仕事を始めて、一気に世界が広がりました。私も色んなことを吸収するのが楽しかった時期でしたから」
 嬉しかったこととして「美味しいものをたくさん食べさせてもらった」と笑うひろ美。けれど、そこから得たのは食事以上のものがあった。
「サティアグラハ時代にアニメの盛り上がりを感じて、アニメ音楽をやりたいと思ったけれど同調してくれるメンバーがいなかった。でもここで出会った人たちは、みんなそのムーブメントを感じていて、私以上にアグレッシブにお仕事をしているんです。そういう人たちと一緒にいるだけで、学べることはたくさんありました」
 コミックマーケットでの山川竜一郎氏との出会いから、一気に広がっていくゲーム業界での人の繋がりの中、その後佐藤ひろ美は大きく羽ばたいていく。その後の出会いの数々は、次回以降に紹介していきたい。