年代別コラム 第8回:2007年編

2007年は、新たな佐藤ひろ美の始まりの年。この年の5月に、個人会社として株式会社Sを立ち上げました。これまで歌だけを歌ってきた佐藤ひろ美が、意識的に他の仕事に打ち込んでいき始めた1年です。

その仕事のひとつが、5月20日に開催されたブロッコリーさんの「ルーンエンジェル隊サードコンサート」。当時のブロッコリー会長だった木谷高明さんには、ずっと「ひろ美ちゃんは歌よりもプロデュース側に回ったほうがいい」と言われていました。それが初めて形になったお仕事です。
でも、お話をいただいた当初はライブのプロデューサーなんて何をしていいのか右も左もわからなくて、その中でライブのコンセプトから選曲、進行台本に衣装デザインまで、やらなくちゃいけないことが多すぎて大変でした。でも、とにかくやらなくちゃということで、出演する声優さんたちの意見も聞きながら、一緒に作り上げていきました。だから大変でしたけど、出演者のみんなとは本当に仲良くなれました。私が年上だから、ライブ以外のことも相談されたり。今でもみんなとは仲良しですよ。
それと、このライブで舞台監督をやってくれた槇さん。私が考えたアイデアを実現するために、本当に一所懸命やってくれました。あんなステージが実現できたのも槇さんのおかげ。槇さんとは今も一緒にお仕事しています。

もうひとつはアニメ『ムシウタ』。この作品ではED曲を歌ったのですが、それ以外の楽曲制作すべてをSで受けたんです。この経験は大きかったですね。初めて予算の中での楽曲作りという現場に入ったのですが、スケジュールの中で仕事を回していく難しさを実感しました。そういえばキャラソンは予算の都合もあって、全部私が作詞作曲したんです。このころから作曲の仕事も増えていきました。
このお仕事では、ほんとうにたくさんの経験をさせていただきました。その中で強くもなれた。ある意味、『ムシウタ』があったから、今の私があるとも言えるお仕事でした。

もちろん歌のお仕事も頑張ってました。PCゲームだと、CLOCKUPさんの『Zwei Worter』。OP、ED両方を担当したんですが、OPは自分が歌った経験がないクールでかっこいい曲。気合が入りました。
それとOVERDRIVEさん。『エーデルワイス』では2曲歌ったんですが、『顔ロード~第6章~』はひどい!(笑) bambooさんならではのバカソングなんですが、とにかくこだわっているんですよ。曲が長いだけじゃなくてコーラスも入ったり。それなのにスタジオの時間は他の1曲と同じだから、録音は急がされる。本気でクレームをつけたら「佐藤にしかできないからさあ」とか言われて(笑)。まあ、よく言えば、「ライブ感のあるレコーディング」ってことでしょうね。

この年は4枚目のアルバム『Brilliant Moon』も発売されました。過去3枚よりも「アーティスト佐藤ひろ美のアルバム」というイメージがあるアルバムかなあ。オリジナル4曲は全部自分で作詞作曲をしたんですが、全部方向性の違う楽曲ですよね。これはいろんな曲をゲーム業界で歌ってきただけでなく、それ以前のサティアグラハでのバンド活動があってこその楽曲だったと思います。私の音楽遍歴の全てが反映されたアルバムなんです。
そういえばタイトルソングの『Brilliant Moon』は、本当にかっこいい曲ですよね。これは藤間くんが素晴らしいアレンジをしてくれたんです。曲を渡すときに「こういう方向性で」という打ち合わせはするんですが、私が予想した以上のアレンジで名曲になって帰ってきました。
前作『Angelica』での淳平くんと藤間くん。二人は私のオリジナル曲をほんとうに大事にしてくれる。だから本当にすてきなアレンジをしてくれます。こういう仲間たちと一緒に仕事ができるというのは、ほんとうに嬉しいことですよね。

最初にも書きましたが、2007年は新しい佐藤ひろ美の最初の1年。Sを立ち上げたことで、自分からどんどん企画を動かしていく仕事の仕方に変わっていった1年です。このころから2010年のデビュー10周年は意識していて、その時を笑顔で迎えたかった。そのためには2007年に独立しなくちゃと思っていました。ファンの皆さんにはゲームやアニメの歌が少なくなってさみしい思いをさせてしまっているかもしれませんが、そうすることで今年につながっている部分もあるんです。
2010年を笑顔で迎える……そのための最初の一歩を記せたのが2007年だったんです。